トガリネズミとネズミ区別3 前足と歯(頭骨)

北海道でネズミみたいな死体を結構見かけることがありますが、人家周辺以外ではオオアシトガリネズミが圧倒的に多いようです。

死体によるトガリネズミとネズミの区別は、その場で前足の指の数を確認すれば判ります。トガリネズミは5本で、ネズミは4本です(左右は関係ありません。手元にあった写真の都合です。あと、くれぐれも、素手で触らないように・・)

また、死体が損傷していた場合、頭骨があれば歯の生え方でも区別することができます。切歯から臼歯間までの歯が無いのがネズミで、すべての歯が並んでいるのがトガリネズミです。頭骨の写真を比べると、鼻先(吻)にあたる頭骨の長さと形が異なることが、トガリネズミとネズミの吻の形状の差につながっていることが判ります。

前足の指の本数、または歯の生え方のどちらか一方でも確認できれば間違いありませんが、機会があれば両方確認してみてください。

トガリネズミとネズミの区別2(野外で見かけた時の判断)

前回の続きです。まず、ここでは、北海道での話が前提ということで話を進めます。(北海道以外も含めると注釈を多数入れる必要があるため、わかりにくくなりますので・・)

皆さんは、トガリネズミとネズミの区別をどのように判断されましたか?野外で、動いているのを見たとき、または死体に触らず、外見的に判断する場合から考えます。結論から言えば、「鼻先が細く尖っていて、尾が頭胴長の半分より少し長く、尾を上げながら走る、全体的に黒っぽい」感じがトガリネズミと言うことになります。

お気づきなったと思いますが、まず顔つきが違います。トガリネズミは鼻先が尖っていて、ネズミはトガリネズミに比べると丸い鼻先になります。

また、トガリネズミは、尾の長さが概ね頭胴長(体全体を伸ばした状態で、鼻先から尾の付け根までの間)の1/2以上ありますが、ネズミには、尾が頭胴長と同じかそれ以上あるものと、頭胴長の1/2以下の2つのタイプがあります。更に言えば、トガリネズミはネズミと比べて体色が全体的に黒く感じます(トガリネズミとネズミの比較1を参照)。

上の写真の左下の秤の写真を見てもらえると頭胴長と尾の比率の感じが解ると思います。しかし、他の写真を見ると止まっている状態では、エゾアカネズミもエゾヤチネズミも頭胴長同じかそれ以上という感じに見えます。すなわち、移動している(走っている)状態とジッとしている状態では、頭胴長と尾の比率の感じ方(見え方)が異なります。また、トガリネズミは基本的には尾をあげて移動しますが、ネズミは尾は地面につけていることが多いのが特徴です(ネズミの足跡には尾の跡がつくのが特徴です)。

実際に野外で動いているトガリネズミか、ネズミに遭遇した場合、鼻先を確認できるような状態は意外とありません。大概は、走っている場合が多いので、後ろ姿など顔が見えな状態に遭遇することになります。したがって、「小さくて、(鼻先が細く尖っていて、)尾が頭胴長の半分より少し長く、尾を上げながら走る、全体的に黒っぽい」というイメージが持てれば、たとえ鼻先が確認できなくても、今、目の前を通過したのはトガリネズミであったのか、ネズミであったのかがわかります。(続く)

トガリネズミとネズミの区別 1

時々、トガリネズミに関しての問い合わせもいただきます。その多くは、「これはトウキョウトガリネズミではないか」と「トガリネズミなのかネズミなのか」の2つに集約されます。また今年の干支が「鼠」なので、例年になくトガリネズミが話題にされる時期なので、問い合わせが多くなります。関心を持ってもらえるのでうれしいです。

昨年12月の講演会に限らず、トガリネズミに関する講演では、必ずトガリネズミはモグラの仲間で、ネズミとは全く別ものであることについて触れますが、あまり時間を割くこともできないので、十分理解してもらえない状況で先に進んでしまうことも多いので、今回何回かに分けて説明してみたいと思います。

まず、分類学的にどうこうと言う前に、姿形でトガリネズミとネズミを自身をもって区別できるようになることが重要です。以下の2枚の比較写真を見て、どこが区別のポイントかをまず考えて見てください。まず区別のポイントがどこかを自分で考えることが、野外で瞬時に区別できる能力アップにつながります。

北海道のこの時期、「雪の上をネズミみたいな生き物が歩いているのを見た」という話が時々あります。それが解るようになります。回答は次回で。

あくび(スロー映像)が撮れました

やっとトウキョウトガリネズミのあくびのスロー映像が撮れました。飼育しているとあくびをたまに見ることがありますが、撮影するとなるとなかなか撮れないものです。

そもそもあくびは、哺乳類だけではなく爬虫類や鳥類でも起こることが知られています。人間があくびする時は、眠たいとき、疲れているとき、退屈なとき、極度の緊張状態のとき、寝起きに起こるとされています。その理由は、酸欠になっているからとか、脳の温度を下げるためとか言われていますが、解明されたとはまでは言えない状況にあります。

トウキョウトガリネズミに関しては、寝起きやじっと同じ体勢でいて、活発に活動をし始めるときに見られます。脳の温度を下げるという理由の一つとして、人間は体温より高い環境ではあくびをしないことがあげられています。しかし、トウキョウトガリネズミは、そもそも基本的に自分の体温より高い気温なる環境に生息していませんし、25℃を超えると口でハアハアと息をする状況もみられ、35℃を超えると死んでしまうこともあるので、そう簡単に同じ状況とは思えません(注1)。今回の映像は気温0℃から5℃の間で、寝ていた後にあくびをしたことから考えると、脳の温度を下げるほど温度が上がっていたのかが疑問になるところです。体が小さくて、寒いところに生息していることから基礎代謝量を高い状態で維持する必要があることを考えると、そう簡単に脳の温度を下げるような状況を体内に作り出すのは、戦略的に不利な印象を受けます。そもそもあくびの理由が、すべて種で同じなのかも検証されていないので、全く別の理由があるのかもしれません。

とにかく、あくびをみるとホットします。なぜなら、あくびを見るときは今のところ常に寝起きの状況なので、緊張状態とは思えないからです。それは、飼育下でも少しでもストレスが少ない状態であって欲しいという私の勝手な思いかもしれませんが・・。

注)トウキョウトガリネズミの体温はサーモグラフィーで測定すると最低36℃程度はある。また、飼育下で夏場に誤って35℃~38℃になった時に死亡した事例がある。

あけまして おめでとうございます

 あけまして おめでとうございます 今年もよろしくお願いします。

今年こそ、トウキョウトガリネズミの出産を見たいと強く願って研究をしますので、引き続き、ご支援、ご協力のほどよろしくお願いします。

現在も1頭のトウキョウトガリネズミが、外気温とほぼ同じ状況で元気で活動しています。野外では、本来草は枯れ、雪に埋もれているため、草の上には登ることはないと考えられます。しかし、雪が無い飼育小屋では、私が餌やりに行くと出てきて、必ず草の上に登り、新しい餌が入れられるまで待っています。学習能力の高さを実感させられます。これまでの最低気温はー9℃でしたが、元気に活動しています。

今朝の状況
現在の飼育小屋の状況

北大総合博物館の展示は本日終了しましが、霧多布湿原センターのパネル展は1月1日まで行っています。

12月15日の霧多布湿原センターにおける講演会の様子

お陰様で、北大総合博物館のトガリネズミとネズミの生体展示が本日で終了しました。多数の方々にお越しいだだきありがとうございました。また、12月15日の北海道厚岸郡浜中町霧多布湿原センターにおける講演会と12月21日の北大総合博物館のセミナーにも多くの方々に参加していただき、無事終了することができました。ありがとうございました。改めて、札幌においてはトガリネズミ達の世話をしていただきました学生さん達と常に見守っていただきました北大博物館の方々、浜中町では、役場職員および霧多布湿原センター職員の方々に御礼申し上げます。なお、霧多布湿原センターでは1月1日までトウキョウトガリネズミのパネル展は行っているので、機会があれば見に行っていただければと思います。

12月21日の北大総合博物館のセミナーの様子

展示も3年目になると脱走事件など色々とハプニングが起こりました。特にトウキョウトガリネズミが死亡したことは大変申し訳ありませんでした。しかし、死亡を知らずに見にみていただいた方からは、死亡を知っても「来年もまた見に来るから楽しみしている・・」と温かい言葉を多数いただきました。機会があればまた生体展示を続けてみたいと思います。

これから、何回かはこの2つの講演会でお話した内容についてご紹介したいと思います。

トウキョウトガリネズミのひげとペットボトル

 トウキョウトガリネズミのひげには長短ありますが、吻の先端から根元方向に長くなり、最長で約10mmになります。幅が約3mmありますので、体の中心から直径約23mmの範囲(4.15㎠)をひげで感知していると考えられます。体の幅が約10mm強ありますので、体側から約5mmの範囲(体幅の倍)を探知範囲としていると考えらます。

 実はこの範囲、ペットボトルの飲み口とほぼ同じ直径なのです。

 

北大博物館展示のトウキョウトガリネズミ死亡

氷点下でも元気に活動している我が家の個体

昨日12月3日の朝に、北大総合博物館で展示していたトウキョウトガリネズミが死亡しました。残念です。捕獲時の9月16日の体重は1.9g、展示時の11月12日は2.2g、死亡時は1.7gだったので、何らかの原因で消耗して死亡したと思われます。

トウキョウトガリネズミに限らず、北海道産のトガリネズミを飼育していると突然死を良く経験します。一番びっくりしたのは、トウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミを合わせて8頭飼育していたときに、確か3番目に餌替えをしたトウキョウトガリネズミの個体が、全部の餌替えを終了して最終確認をしていたら、死亡していたということがありました。その間30分も経っていなかったと思います。餌を食べに出てきて、生きているのを確認していたにも関わらずです。

結構生命力が強いと思うこともあれば、原因不明で突然死亡してしまうこともあります。弱ってきて、ああダメかなあと思って死亡することよりも、昨日まであんなに元気だったのに・・と思うことが圧倒的に多いので、自宅で飼育している個体も毎回、生きているのを確認するまではドキドキします。

なお、我が家で飼育している個体は、冬季間どのような生活をしているかを調べるために野外と同じ環境で飼育しているため、暖かい環境にはもう戻せません。したがって、博物館では今回は展示できませんので、ご了承ください。

トウキョウトガリネズミの鳴き声

11月30日に北大総合博物館でトガリネズミ展の解説をしていたところ、昨年もトガリネズミ展を見た女性から、「トウキョウトガリネズミは鳴きますか」と質問されました。よく話を聞くと、前回トウキョウトガリネズミが板の上から落ちた時に、驚いたのか、痛かったのか「チィ」という短い鳴き声を聞いたということでした。しかし、トガリのtwitterでは、鳴き声の書き込みが全く無いので、空耳だったのかなと不思議に思っていたそうです。

トウキョウトガリネズミは、極希に人間の耳で聞こえるような「チィ」というような鳴き声を出すことがあります。基本的にはトウキョウトガリネズミは、人間に聞こえる音で鳴くことはほどんどありません。しかし、個体によっては、ビデオにあるような人間が聞こえる探索音みたいな音をだします。(トウキョウトガリネズミが出す超音波については、2018年12月16日のトガリネズミがカメラが苦手は訳を参照ください。)

トウキョウトガリネズミの鳴き声を聞いた女性は、ラッキーだと思います。トガリネズミ展の会期も12月26日まで延期されることになりましたので、展示を見に行かれる方は是非トウキョウトガリネズミが鳴いていないか確かめてみてください。

オオアシトガリネズミの貯食行動(1)

 現在の季節は初冬ですが、展示している場所は暖房が入っているのでトガリネズミしてみれば夏から秋みたいな気温です。トウキョウトガリネズミもオオアシトガリネズミも冬眠しません。冬季にどのように採餌しているかは、現時点ではよくわかっていませんが、寒くなると飼育下のオオアシトガリネズミには貯食行動と考えられる特徴的な行動が見られます。

 映像は、気温が5度程度が数日続いたある日、新しい餌を与えたらオオアシトガリネズミが、立て続けにゆでたミルワームを草の中に引き込む始めた様子を撮影したものです。2日ほどこのような目立った行動をしていました。1日目は、9gの餌が15分ほどで3gを残すだけになったところで引き込むのをやめました。