北大博物館のトガリネズミ展示の裏側(1)

バックヤードの飼育状況

現在北大博物館で開催しているトガリネズミ展は、生体を展示していますので、通常の展示よりも多くの人に支えられて運営されています。

生体を展示している動物園や水族館も、生体を展示していない博物館も法律上では同じ博物館として扱われますが、その館の基本コンセプトにないものを展示する場合は、これまで無かった日々の作業工程や作業量が増加することになります。したがって、北大博物館は通常生体を展示していないので(水生昆虫の展示はありますが・・)、色々と関係者にご負担をおかけすることになります。

トガリネズミ展を維持するためには、期間中展示されている個体以外にバックアップ用の個体も博物館内で飼育しています。展示個体も含めこれらの個体の世話は、北大の学生ボランティアが交代で、毎日1回を行っています。2人体制で行ってもらっていますが、1時間程度かかります。

博物館の職員の方は、主にバックアップ用の飼育個体がいる部屋の日長の調整を行っていただいています。長期間明確な日中と夜が無い状況が続くと、体調に異常を来します。作業は単に時間通りに照明をつけるという行為ですが、トガリネズミの体調管理においてとても重要な作業をしていただいています。さらに、トガリネズミに変化がないか、常に気にしていただいていて、頻繁に確認していただいています。

体が小さいので飼育も楽と思われるかもしれませんが、長生きさせるためには細かい管理が必要で、中・大型動物と比べるとちょっとしたミスや油断が死亡原因となります。実は、累代飼育が可能になっていない北海道に生息している4種のトガリネズミを1ヶ月以上も生体展示するのは、かなりハードルが高いことなのです。それを可能にしているのが、博物館の職員の方と学生ボランティアの方々なのです。

飼育ケース内のトウキョウトガリネズミを見つけるポイント

トウキョウトガリネズミの観察ポイント

10月31日の午前中に、博物館の展示の様子を見に行きました。思っていたより多くの人が博物館の見学に訪れていて、驚きました。また、その中でも結構な方が興味を持って、トガリネズミ展のコーナーを見ていただいていました。ありがとうございます。

見学の方を見ていますと、入り口の展示剥製を少し見て、展示ケースをみて、トガリネズミが出ていないとそのまま通過してしまうという状況でした。パネルには少し目を向けられますが、残念ながら流れている映像には素通りでした。トガリネズミ展を目的としてこられた方は少ないので、仕方ないと思いますが、せっかくなので、世界最小級の哺乳類とシロクマの大きさの差を実感してもらいたいと思いました。

今回の映像は、新型コロナウィルス感染防止の観点から、これまでように対面で解説するのもいかがな物かと考えて、解説中心のスライドとトウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミの紹介の映像で構成しています。そもそも、パネルの代わりという部分も持たせているので、文字が多いスライドが多いので、そんなに見ていただけないというのは想定していましたが、立ち止まって、トガリの映像を見ていただいた方はほんの数人の方でした。

その映像には、トウキョウトガリネズミを見つけるポイントも紹介しています。もし、これから見に行かれるなら、上図の場所に注目してトウキョウトガリネズミを探してください。動いていると判りますが、じっとしていると意外を気がつきません。動いていないからといって、草の中に隠れていると思っていたら、意外と目の前に居たということもあります。

あと、探す時間はほとんどの方は10秒程度で、1分近くかける方もそんなに多くはありません。トウキョウトガリネズミは、多くの場合約30分に1回程度(時には2時間以上出てこないこともありますが)は、隠れている場所からでてきます。会場では、トウキョウトガリネズミが出ていないことをまず確かめてから、映像とパネルを見てもらえますと、その間に出てくる可能性が高くなります。もう少し時間をかけていただければと思います。ちなみに顔を出すのは数秒から5分程度とその時によってかなりのばらつきがあります。

生体展示の場合、撮影禁止とお願いしている理由

北大博物館の展示で、トガリネズミの撮影をしないようにお願いしています。それは、カメラの出す超音波がトガリネズミに強いストレスを与えるからです。超音波を当てますと、逃げたり、隠れたり、固まって動かなくなったりします。

これまで、多摩動物公園、札幌市円山動物園、霧多布湿原センター、北大博物館で展示された生きたトウキョウトガリネズミの個体は、すべて私が捕獲して提供したものです。これらの経験から、多摩動物公園以外で展示された個体は、展示されなかった個体と比較して、寿命が短いという傾向を示しています。(多摩動物公園では、色々と配慮されています。それについては、改めて・・・)

ストレスの原因は複数ありますが、展示して一番加わるストレスは、はやり撮影と考えられます。現在は、飼育小屋で飼育していますが、以前は自分の書斎で飼育していましたので、生活騒音の中で飼育していました。それに比べても、短命傾向を示すのです。一番違うのは、撮影される頻度です。細かいことを言うと、撮影するカメラの機種、ガラスを通すと超音波の強さが変わるとか色々ありますが、今は誰でもまず撮影から・・と言っても過言ではないこのご時世です。その頻度は、私が撮影する頻度とは比べようもないほどの大きな差があります。

見学者の多くは、とにかく写真を撮ることから始まります。さらに、中には撮影を始めると我を忘れて更に良い写真を撮りたいと居座る人もでてきます。常に監視者がついている訳ではなく、収拾がつかないので一律禁止にさせてもらっています。ご理解とご協力をお願いします。

私も以前は、オートフォーカスを使用して撮影していました。その時は、30分以上の撮影はやめていました。今は、基本的にはピント合わせはマニュアルにして、オートフォーカスを使用していません。動きが速いので、マニュアルでピントを合わせることは実質不可能に近いです。したがって、観察して映像として残したいと思う場面が判れば、そこにピントを合わせて待っています。実は、マニュアルにしてからの方が、トウキョウトガリネズミの動きの細かい部分まで見えてきた気がします。ピンボケ写真の枚数が相当増加しましたが、ピントが合った時は予測が的中したことを示しているので、以前よりも1枚1枚に対する価値が異なってきたような気がしています。

ハマナスの実にのるトウキョウトガリネズミ

ハマナスの実に乗る、トウキョウトガリネズミ

 今年のトウキョウトガリネズミの展示用の飼育ケースには、流木を追加しました。トウキョウトガリネズミは、流木の割れ目が好きらしく、その中に入ってじ~っとしていたり、餌のミルワームを挟み込んだりしています。

 今年の調査で、トウキョウトガリネズミが、トゲのあるハマナスを、トゲの無い植物と同じように上り下りし、休息場所として想像以上に利用していることが判りました。トウキョウトガリネズミにとっては、ハマナスのトゲは小さな枝見たいなもののようです。また、ハマナスの実は食べませんが、ハマナスの実の上には乗ったりします。

 ハマナスの実に乗っているというのは、中くらいのプチトマトにトウキョウトガリネズミを乗せている感じです。

 展示前に、展示用の飼育ケースにハマナスを入れて馴らしていましたが、掃除の時にトゲが刺さり、作業がしにくいことが判ったので昨年と同様の草本にしました。トガリネズミの世話は、北大生の方々にボランティアで行ってもらっています。その方々に、痛い目に遭わせるのは申し分けないので・・・。特に油断している時に刺さると、余計に結構痛いです(>_<)

 

 

3月1日の多摩動物公園のトウキョウトガリネズミの講演会は中止になりました

 3月1日に多摩動物公園で行う予定でした、干支の講演会2020 PART2 北海道浜中町・多摩動物公園パートナーシップ協定記念講演会「トウキョウトガリネズミが結ぶ縁」~ねずみじゃないネズミの話~ は、新型コロナウイルス感染対策のため中止になりました。

 中止は残念ですが、現状では仕方ありません。まずは、感染拡大を避けなければなりません。事態が収まってから、改めて開催については検討してもらえると思います。

 重篤の方の早期のご回復を願うとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。皆様もお気をつけください。

3月1日に多摩動物公園でトウキョウトガリネズミの講演会をします

3月1日に多摩動物公園で、干支の講演会2020 PART2 北海道浜中町・多摩動物公園パートナーシップ協定記念講演会「トウキョウトガリネズミが結ぶ縁」~ねずみじゃないネズミの話~を開催します。

2003年に私が嶮暮帰島でトウキョウトガリネズミを捕獲できることを確認したことを契機に、2005年から多摩動物公園と共同研究という形で、捕獲調査や飼育の方法の確立などを行ってきました。それがきっかけになり、2007年には浜中町と多摩動物公園との協働で「トウキョウトガリネズミのふるさとである浜中町の自然と野生動植物を守る」という意思表示のためにパートナーシップを締結していただき、12年の歳月が経過しました。

12年間も継続できたこと自体とても素晴らしいことなのですが、正直、当時多摩動物公園と浜中町で関わっていただいたい方の多くは退職され、パートナーシップを締結した当時の関係者の思いは少し薄れてきた気がします。これは組織である以上仕方ないことです。今回締結12年目を契機に振り返りをしていただき、昨年の浜中町での講演会と今回の多摩動物公園での講演会につながりました。とても感謝しています。

元々、私のトウキョウトガリネズミについて知りたいという思いに、多くの人に賛同していただいたことから始まり、今まで色々な方に応援・支援して頂いてきました。しかし、私個人ベースの研究ということもあり、細々と継続していくのが精一杯で、一番大きな目標である累代飼育まではまだ成功していません。関係者の方には大変申し訳ないと思っています。私も定年の年齢になり、残された時間を考えて、これまでとはアプローチを変更して、あと3年以内に最低トウキョウトガリネズミの出産状況だけでも確認すること目標に努力しています。

今回12年分の成果を報告する時間を設定していただいたので、時間があればぜひお越しいただけば幸いです。

詳しくは、多摩動物公園のHPをご覧ください。

事前申し込みが必要ですが、申し込みされると入園料が無料になります。講演会だけではなく、トウキョウトガリネズミの実物もぜひ多摩動物公園で見てください。申し込み期限は2月23日までです。

北大総合博物館の展示は本日終了しましが、霧多布湿原センターのパネル展は1月1日まで行っています。

12月15日の霧多布湿原センターにおける講演会の様子

お陰様で、北大総合博物館のトガリネズミとネズミの生体展示が本日で終了しました。多数の方々にお越しいだだきありがとうございました。また、12月15日の北海道厚岸郡浜中町霧多布湿原センターにおける講演会と12月21日の北大総合博物館のセミナーにも多くの方々に参加していただき、無事終了することができました。ありがとうございました。改めて、札幌においてはトガリネズミ達の世話をしていただきました学生さん達と常に見守っていただきました北大博物館の方々、浜中町では、役場職員および霧多布湿原センター職員の方々に御礼申し上げます。なお、霧多布湿原センターでは1月1日までトウキョウトガリネズミのパネル展は行っているので、機会があれば見に行っていただければと思います。

12月21日の北大総合博物館のセミナーの様子

展示も3年目になると脱走事件など色々とハプニングが起こりました。特にトウキョウトガリネズミが死亡したことは大変申し訳ありませんでした。しかし、死亡を知らずに見にみていただいた方からは、死亡を知っても「来年もまた見に来るから楽しみしている・・」と温かい言葉を多数いただきました。機会があればまた生体展示を続けてみたいと思います。

これから、何回かはこの2つの講演会でお話した内容についてご紹介したいと思います。