オオアシトガリネズミも結構普通に草に登る

これまで、トガリネズミ類で草に登るのはトウキョウトガリネズミの専売特許見たいなことを書いてきましたが、実はオオアシトガリネズミも結構頻繁に草に登っていることが判ってきました。以前に野外で木に登ったオオアシトガリネズミを見たことはありますが、草に登ったところは見たことがありませんでした。

これまでは、時々草に登ることがあってもすぐ降りてくるということを報告してきましたが、野外飼育場でオオヨモギを夜間に結構頻繁に登り降りするのを自動撮影装置で記録してから、これまで考えてきた以上にオオアシトガリネズミも草を登ることが判ってきました。

映像は、夜間も昼間も飼育下では草に登るということが記録された映像です。トウキョウトガリネズミのように、長時間草の上にいることまでは確認できていませんが、思った以上に草の上に留まっていることが判ってきました。トウキョウトガリネズミとの差は何であるのかはこれからです。でも、体重が重たいのはやはり草を利用するにはハンディになっているようです。

オオアシトガリネズミは、主に地表から地中を利用するため、草などには基本的に登らないと考えられていましたが、そうではないことが少しずつ判ってきました。これも、昨日書いたように定説(固定概念)を鵜呑みにせず、新たな視点でアプローチして考えるということが十分でなかったため、これまで検討されていなかった行動になります。北海道に生息する4種のトガリネズミにとっては、草に登ること自体は、どの種も基本行動の一部とし考えても良いのかもしれません。

そうすると、オオアシトガリネズミとトウキョウトガリネズミが共存しているのは、立体的な空間利用に明確な差があるからとトウキョウトガリネズミの研究を始めたころは考えてそのような論文も書きましたが、そんな単純なことではなく、まだ見落としているものがあるのではないかと最近は考えています。日々観察が重要だと痛感しています。

 

 

たまにはオオアシトガリネズミのはなし 

トウキョウトガリネズミだけではなく、オオアシトガリネズミも飼育しています。オオアシトガリネズミを飼育する目的は、トウキョウトガリネズミを知るための鍵を握っているからです。

その主な理由は、以下のようなものです。

1)オオアシトガリネズミは全道に広く生息していますが、トウキョウトガリネズミは、局部的にしか生息が確認されていないこと

2)トウキョウトガリネズミを捕獲している場所では、必ずオオアシトガリネズミも捕獲していること

3)私がトウキョウトガリネズミを恒常的に捕獲できるようになるまで、オオアシトガリネズミが体が大きく優勢だから個体数が多いが、トウキョウトガリネズミは体が小さいため劣勢なので個体数が少ないという解釈が当然とされていたから

トウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミが、同じ場所で捕獲されたことが、これまで定説とされてきたことを覆すことだけではなく、オオアシトガリネズミ自体も良く理解していなかったことも証明した形になりました。

このHPのサブタイトルに「新しい視点から」と入れているのは、トウキョウトガリネズミのこれまでのイメージや希少としてしまったのは、定説を鵜呑みにして疑わなかったということから作り出された虚像だったことの反省から来ています。

オオアシトガリネズミを知ることは、トウキョウトガリネズミを知ることでもあり、他の生物を知るヒントにもなりますので、これからはこれについても紹介したと思います。

まずは、オオアシトガリネズミ寝姿を見てください。夏の暑い時です。普段は草を丸めた巣の中で寝ていますが、撮影時は暑かったですので、草を丸めるのやめた感じの巣で寝ていました。それでも暑かったのか飼育ケースの隅でなんとも緩い感じて寝ています。最初は死んでいるのかと思ったくらいです。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 6

まだまだ映像はあるのですが、長くなってきたので一端整理しますと、トウキョウトガリネズミは、基本的に視力は非常に弱く、嗅覚、触覚、聴覚(振動・音)で主に判断していると推察できます。したがって、人間を我々が考えているような人間という形はで認識していないと考えられます。したがって、Aさん、Bさんと区別をして、人間の姿を認識した上で馴れるということも考えられません。

手乗りになる個体は、手の匂い、表面温度や触感などで判断しているものと考えられます。いきなり指や手を目の前に出しますと、動きにびっくりするのか、一端引きますが、すぐに鼻を動かしながら、鼻先か、口周りのひげで触り、前に進むか退くかを決めます。私は、その時に何回か噛まれたり、噛まれそうになったりしたこともあります。私は普段から手乗りに個体にしようとは考えていませんでしたので、これまで飼育してきたすべての個体で確認した訳ではありませんが、手乗りになる個体は全体の10%にも満たないという印象です。

以上のことから、トウキョウトガリネズミは主に嗅覚、触覚、聴覚(振動・音)を使用して、物を認識しており、視力は補助的なレベルにしか使用していないと考えられます。よって、人間の全体の姿を認識しているわけではなく、人に馴れて手に乗っているのではなく、手の感触や匂いなどを気に入った(興味をもった?)個体だけが手乗りになると考えられます。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 5              どのように見えているか4の1分前に遡る

昨日は、トウキョウトガリネズミがコオロギを捕食する瞬間の映像でした。さた、どのようにしてトウキョウトガリネズミは、コオロギを発見したのでしょうか?

昨日の映像の約1分前に遡ってみましょう。

コオロギを私が飼育ケースに入れて2分ほど経過しました。コオロギは、私が飼育ケースに入れた時から隠れる場所を探して動き回っていました。その後が、下記の映像になります。

トウキョウトガリネズミは、休んでいた草むらから出てきて、鼻先を空中に突き出します。まるで、鼻先がコオロギを探すレーダーのようです。そして、何かを感じとったのか草に潜り、その中をまっすぐ移動してきて、コオロギが動いている草むらの近くから出てきます。その誤差15cm弱。(画面からコオロギは消えていますが、画面左下の画面から切れたギリギリのところで、もそもそ動いています。)

しかし、草むらから出てきた瞬間のトウキョウトガリネズミは、映像からはコオロギがそばにいることは認識していません。コオロギの方向を1度も見ていないからです。餌入れを回り込んで、開けた空間に出てコオロギと出会うことになります。ところが、今回のように餌入れを回り込んでも、毎回コオロギの居る方向に行くわけではありません。反対方向に行ってしまい、飼育ケースを隈なく探しことになる場合もあります。

いずれにしても、昨日の場面のようにコオロギが前進してくる延長線上で、かつ至近距離でないと視力を使っていると思える場面は見られません。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 4

トウキョウトガリネズミは、じっとしているコオロギは見逃すという話をしてきましたが、本来コオロギをどのように捕食するかについて、映像をアップしていませんでしたので、本日はその映像を載せました。

コオロギが動いていれば、このように捕獲するという映像です。

コオロギを発見した時の、トウキョウトガリネズミの顔と目の動き、そして、どの時点で獲物として認識し、捕獲したのかについてよく見てください。

明らかに獲物が目の前にいると認識したのは、10cm程度前で、コオロギが歩いているのをみて、自分の進行方向の右側に草を飛び越え、コオロギの進行方向正面を避けて、コオロギを狙っているのが判ります。そして、間合いは計って4cm程度まで目の前に来た時点で飛びかかっています。その行動の間は、目(顔)はコオロギに向けられています。しかし、寸前でコオロギにかわされています。

実は、コオロギを捕食するときは、多くの場合1回で押さえ込めず、追いかけて仕留めることが多いです。基本的に1歩で捕まえられる距離ですか、1回では仕留められないのを見ますと、良く獲物が見えていないのか、動体視力が弱いのではないかと思ってしまします。

 

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 3

トウキョウトガリネズミの行動を観察すると、そのヒントがいくつかあります。

トウキョウトガリネズミは、捕獲して新しい飼育ケースに入れると必ず隅々まで確認します。その時、鼻を動かし、くんくんと匂いを嗅ぐような仕草と口周りのひげで触れて確認しているように見えます。そして、ケース内を何度も隈なく探索したあと、一定時間が経つと納得したのか、そのケース内で居心地の良い場所でじっとします。最初は脱出しよういているだけかもしれませんが、とにかく、今入れられた場所の空間把握をするために、行けるところはすべて行くという感じで、ケース内を探索します。

その際に、それ以上高いところに行けない場合は、昨日掲載したような立ち上がって空間の匂いを嗅ぐような行動を見せます。その際にゆっくりと指をだしても、すぐには逃げることもなく、触れられるような距離になると匂いを嗅いで、時には直接鼻先で触ってみて、ほとんどの個体は瞬時に体を引き、移動します。中には、何度か触れるような行動をして、少しずつ前進と後退を繰り返しながら指に乗ってくる個体もいます。(手の平でも同じです)

しかしこれら一連の行動には、例えばキツネが人間と遭遇するとこちらの動きを把握するために、こちらを見つめるという行動が見られますが、それが見られないのです。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 2

動物が目で物を見るという行為は、見た物が自分にとってどのような物かと認識する行為と置き換えられます。したがって、見えたものが、食べ物か、危険な物かなど、自分にとってどのような物であるかを認識して、取るべき行動を判断するということになります。

ワシタカ類の中には、空中から草の中にいるネズミを確認して捕獲できますが、ガンやハクチョウ類などでは、ネズミを食べる必要がないのでそのような能力は多分もっていません。すなわち種ごとに、生活様式によって「見える物の大きさや内容」=「認識できる内容」が異なることは明らかです。したがって、基本的に我々と同じものを見ていても、見えている範囲や認識している内容は同じでないことが想像できると思います。トウキョウトガリネズミは立ち上がってもせいぜい6~7cm程度です。したがって、身長170cmの人間を見るということは、人間が高さ40m位(10~11階程度)のビルを見上げているようなものです。

そして、じっとしていると数センチ前にいるコオロギも認識できずに良く通過してしまいますので、遠いものを認識できる目の能力はとても低いと推察されます。動いていれば、動く物体として認識はするでしょうが、人間の全体の形を目で認識しているとは考えにくいのです。したがって、イヌやネコなどが、飼い主とそれ以外などというような個人を区別して生じるような馴れというのを想定しているのであれば、それは無いと言えるでしょう。

これだけを聞きますと、「目が見えなくて、人馴れしないとか言うけれど、手乗りするトウキョウトガリネズミもいるから、おかしい」と思われる方もいると思います。しかし、人間からすると視力は確かに良くありませんが、それは物を認識する方法が異なるだけですし、本来人と接することはありませんので、人に馴れるということ自体の概念を持っていませんので、手に乗る行為が馴れたというのは人間側の都合の良い解釈だということになります。

では、どのように考えたら良いのでしょうか。

 

トウキョウトガリネズミは、どのように見ているのか 1

トウキョウトガリネズミについて、色々質問をいただきます。「トガリネズミは目が見えますか?」とか「馴れますか?」とかは、頻繁に聞かれる項目です。私の回答は、往々にしてみなさんの期待外れのようです。それは多くの場合、質問者が期待していた回答とは異なるからみたいです。

映像を見てください。この映像を見てどのように見えますか?

私には、撮影している私を気にしているようですが、目を使って物を判別しているような動きをしていない様に見えます。光を当てても、極端に嫌がってはいないようです。日中でも夜間と同じように、鼻や口ひげで何かを捉えようとしているように見えます。

そこで、質問です。「目が見えるというのはどのような状態を指していますか?、馴れるとはどのような状態を指しますか?」

この質問は、見えるか、馴れるのか、と質問されたらいつも聞き返す内容です。さて、あなたはどのような回答になりますでしょうか?これは、互いがどのような視点でトウキョウトガリネズミを見ているかを明らかにするための質問なのです。回答の本題に入る前にとても重要なポイントになります。

 

トウキョウトガリネズミの夜間活動1

これは赤外線ライトを使用して、AX-60で撮影したものです。トウキョウトガリネズミを含めトガリネズミ類は、ほぼ夜間に捕獲されます。22時から2時の間に捕獲されることが多いです。したがって、良く夜行性なのかと質問されますが、採餌行動は日中でも頻繁に見られますので、夜行性というのは適切ではありません。

これまでブログに掲載してきた動画や写真は、日中やライトを照らした中で撮影したものが多いですが、それと比較してもこの動画のトウキョウトガリネズミの行動や動きの速さなどは全く変わらないことが判ります。

トウキョウトガリネズミの目は小さく、コオロギがほんの1~2cm程度前方にいえも動かずじっとしていますと、その前をあっという間に通過してしまいます。それは、夜間でも日中でも変わりません。目の構造・組織についての研究はなされていませんので詳細はわかりませんが、人間が物が見えていると考える状況・概念とは異なっていることだけは確かです。

真夜中の食事

 

トウキョウトガリネズミが、餌を食べたり、水を飲んだりする映像は、なるべく自然環境に近い状態で飼育しますと、草や流木などを入れているため撮影しにくい状況になってしまいます。そこで、衣装ケースを2つ繋げて一方を餌と水と隠れ家用に木の箱だけ、もう一方はチップと流木のみにして、自動撮影装置でどれくらいの頻度で餌や水を飲むのかを調べることがあります。

上記の映像は、夜中の0時58分水をのみ、衣装ケースの隅まで行ったあと、ゆでミルワームを木の箱の中で食べようを持ち込んでいるところです。夜間で真っ暗な飼育小屋の中でも、迷うことなく行動していることが判ります。