「トガリネズミは2時間食べないと死ぬ」説は大げさ

トガリネズミに関する一般に広まっている話の多くは、正確ではないことが多いです。あえて、間違っていると言わないのは、数少ない断片的な事例を紹介した人とそれを定説として広げている人が同じとは限らないからです。

すなわち「目の前で2時間食べなかったら死亡した」という事実は本当にありました。しかし、それが標準ということでありませんが、それが定説として一人歩きしていくということが往々にしてあるからです。

情報は、それを得た人・利用する人のバイアスがかかって広まるからです。それは、何回も述べてきたように、トウキョウトガリネズミが幻の哺乳類にされてしまったことに通じています。

そこで、改めて「トガリネズミは2時間食べないと死ぬ」というのは、北海道に生息しているトガリネズミについては大げさです。(私は、北海道に生息しているトガリネズミ4種でしか確認していませんので、トガリネズミ類全般に通じる話ではありません。今回はトウキョウトガリネズミを前提して話を続けます。)

捕獲調査の時に、2時間間隔で見回りを現在しています。それは、2時間間隔で回収することが生存個体回収率が最も高いということを経験的に得たからです。当然2時間説は知っていましたが、効率良い捕獲をしたいので回収間隔を1時間から4時間まで1時間間隔で試みました。その結果、捕獲後の作業時間確保も含め、生存個体回収率が一番成績がよかったので2時間間隔になりました。もし、2時間食べないと死ぬというのであれば、そのような結果はなりません。それは、回収を開始してから餌を与えるまで30分~1時間半程度後になるからです。すなわち、餌を食べた直後の個体でないと生き残れないということになります。

しかし、2時間間隔におけるトウキョウトガリネズミの生存個体回収率は約98%になります(220個体中3個体程度。オオアシトガリネズミと同時又はトウキョウトガリネズミが2頭同時に同じ罠に入るという特殊な例を除く)。また、トウキョウトガリネズミは生存した状態で回収できたら、数日内に死亡することはほどんどありません(正確な数字を確認できたら、また報告します)。また、飼育下における数例の確認状況ですが、餌箱に餌を食べに来る間隔も30分から60分未満が一番多かったですが、長い時には180分以上も訪れなかったこともあります。

では改めて、「何時間食べないと死ぬのか?」という問いについては、これまでの捕獲実績と飼育下の確認から、いくつか想定される状況を考慮すると幅はかなりありますが(3~5時間)、単純に捕獲間隔からすると4時間程度は食べなくても大丈夫でないとこのような捕獲成績にはならないと考えられます。

ということで、2時間食べないと死ぬというのは大げさと言えます。別の機会にもう少し詳しく説明したと思います。

オオアシトガリネズミ ヨモギに登る

 

 

 

野外飼育場の状況です。2年前まで家庭菜園のまねごとで、キュウリ、トマトなどを栽培していましたが、私はどうも家庭菜園向きの性格ではないようですので、野外飼育場にしてしまいました。

昨晩の続きですが、夜間オオアシトガリネズミは活発に動き回っていますが、思った以上に草に登っていました。2019年7月4日の20時から翌日5日の5時までに草に登ったことが11回自動撮影装置で記録されていました。

わかり安い映像は下記をみてください。積極的に草に登っていることが判ると思います。また、結構ジャンプします。同じようなところで、草に向かって飛びつこうとするようですが、毎回届かないように見えます。それでも繰り返します。ポジティブな?性格みたいです。

オオアシトガリネズミの野外飼育場での行動 

 

通常は、長さ70cm、幅35cm程度の衣装ケースで飼育していますが、それとは別に、10倍程度大きい野外飼育場で、オオアシトガリネズミを飼育したことがあります。当然、土で草が生え、流木などが置いてあります。今日はその時のオオアシトガリネズミの生き生きとした行動の映像です。

活発に動きます。地表、特に流木の上で活動する場合は、良く立ち上がって周囲の状況を確認するような行動を頻繁にしています。驚きは、勢い余って流木から飛び上がって地面まで落ちてしまうことです。オオアシトガリネズミの全長の2.5倍くらいの高さから落ちています。人間なら5mくらいから落ちている感じだと思いますが、全く平気です。落ちることに関して、基本的に恐怖感というものを持ち合わせていないかのように見えます。

野外飼育場には餌となるミミズや昆虫もいますが、与えたミルワームや水を頻繁に利用しています。餌の利用割合の変化までは調べられませんでしたが、一端飼育したので餌入れの場所はすぐに判ったようです。

オオアシトガリネズミの爪は、特に伸びやすい?

オオアシトガリネズミの2枚の写真で、前足の爪の状況を見比べてください。

1枚目の写真の状態が通常です(クリックして拡大してください)。2枚目の写真は、爪の先が曲がりかけているくらい以上に伸びていることがわかります。(付け爪しているようです。)

悪いのは私です。オオアシトガリネズミは、北海道産のトガリネズミの中では一番土を掘るために特化しており、他の種と比べても手の平はグローブのように大きいです。当然、土を掘ることで、爪が必要以上に伸びないように普段の行動で調整されています。しかし、飼育しやすいように土の代わりにチップを敷いていますし、脱出される要因になる流木などもほとんど入れていませんでした。したがって、爪が削れるような状況を作って居なかったのです。

爪が伸びすぎると歩きにくくなりますし、爪が折れるとそれが原因で感染症を引き起こす原因になります。かわいそうです。反省して、流木を入れていますが、十分とまでは行かないようで、爪はのび気味傾向にあるのも事実です。もう少し工夫したいと考えています。トウキョウトガリネズミも同様に爪は伸びますので、流木を入れたり、木の箱を入れたりしています。

 

オオアシトガリネズミも結構普通に草に登る

これまで、トガリネズミ類で草に登るのはトウキョウトガリネズミの専売特許見たいなことを書いてきましたが、実はオオアシトガリネズミも結構頻繁に草に登っていることが判ってきました。以前に野外で木に登ったオオアシトガリネズミを見たことはありますが、草に登ったところは見たことがありませんでした。

これまでは、時々草に登ることがあってもすぐ降りてくるということを報告してきましたが、野外飼育場でオオヨモギを夜間に結構頻繁に登り降りするのを自動撮影装置で記録してから、これまで考えてきた以上にオオアシトガリネズミも草を登ることが判ってきました。

映像は、夜間も昼間も飼育下では草に登るということが記録された映像です。トウキョウトガリネズミのように、長時間草の上にいることまでは確認できていませんが、思った以上に草の上に留まっていることが判ってきました。トウキョウトガリネズミとの差は何であるのかはこれからです。でも、体重が重たいのはやはり草を利用するにはハンディになっているようです。

オオアシトガリネズミは、主に地表から地中を利用するため、草などには基本的に登らないと考えられていましたが、そうではないことが少しずつ判ってきました。これも、昨日書いたように定説(固定概念)を鵜呑みにせず、新たな視点でアプローチして考えるということが十分でなかったため、これまで検討されていなかった行動になります。北海道に生息する4種のトガリネズミにとっては、草に登ること自体は、どの種も基本行動の一部とし考えても良いのかもしれません。

そうすると、オオアシトガリネズミとトウキョウトガリネズミが共存しているのは、立体的な空間利用に明確な差があるからとトウキョウトガリネズミの研究を始めたころは考えてそのような論文も書きましたが、そんな単純なことではなく、まだ見落としているものがあるのではないかと最近は考えています。日々観察が重要だと痛感しています。

 

 

たまにはオオアシトガリネズミのはなし 

トウキョウトガリネズミだけではなく、オオアシトガリネズミも飼育しています。オオアシトガリネズミを飼育する目的は、トウキョウトガリネズミを知るための鍵を握っているからです。

その主な理由は、以下のようなものです。

1)オオアシトガリネズミは全道に広く生息していますが、トウキョウトガリネズミは、局部的にしか生息が確認されていないこと

2)トウキョウトガリネズミを捕獲している場所では、必ずオオアシトガリネズミも捕獲していること

3)私がトウキョウトガリネズミを恒常的に捕獲できるようになるまで、オオアシトガリネズミが体が大きく優勢だから個体数が多いが、トウキョウトガリネズミは体が小さいため劣勢なので個体数が少ないという解釈が当然とされていたから

トウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミが、同じ場所で捕獲されたことが、これまで定説とされてきたことを覆すことだけではなく、オオアシトガリネズミ自体も良く理解していなかったことも証明した形になりました。

このHPのサブタイトルに「新しい視点から」と入れているのは、トウキョウトガリネズミのこれまでのイメージや希少としてしまったのは、定説を鵜呑みにして疑わなかったということから作り出された虚像だったことの反省から来ています。

オオアシトガリネズミを知ることは、トウキョウトガリネズミを知ることでもあり、他の生物を知るヒントにもなりますので、これからはこれについても紹介したと思います。

まずは、オオアシトガリネズミ寝姿を見てください。夏の暑い時です。普段は草を丸めた巣の中で寝ていますが、撮影時は暑かったですので、草を丸めるのやめた感じの巣で寝ていました。それでも暑かったのか飼育ケースの隅でなんとも緩い感じて寝ています。最初は死んでいるのかと思ったくらいです。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 6

まだまだ映像はあるのですが、長くなってきたので一端整理しますと、トウキョウトガリネズミは、基本的に視力は非常に弱く、嗅覚、触覚、聴覚(振動・音)で主に判断していると推察できます。したがって、人間を我々が考えているような人間という形はで認識していないと考えられます。したがって、Aさん、Bさんと区別をして、人間の姿を認識した上で馴れるということも考えられません。

手乗りになる個体は、手の匂い、表面温度や触感などで判断しているものと考えられます。いきなり指や手を目の前に出しますと、動きにびっくりするのか、一端引きますが、すぐに鼻を動かしながら、鼻先か、口周りのひげで触り、前に進むか退くかを決めます。私は、その時に何回か噛まれたり、噛まれそうになったりしたこともあります。私は普段から手乗りに個体にしようとは考えていませんでしたので、これまで飼育してきたすべての個体で確認した訳ではありませんが、手乗りになる個体は全体の10%にも満たないという印象です。

以上のことから、トウキョウトガリネズミは主に嗅覚、触覚、聴覚(振動・音)を使用して、物を認識しており、視力は補助的なレベルにしか使用していないと考えられます。よって、人間の全体の姿を認識しているわけではなく、人に馴れて手に乗っているのではなく、手の感触や匂いなどを気に入った(興味をもった?)個体だけが手乗りになると考えられます。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 5              どのように見えているか4の1分前に遡る

昨日は、トウキョウトガリネズミがコオロギを捕食する瞬間の映像でした。さた、どのようにしてトウキョウトガリネズミは、コオロギを発見したのでしょうか?

昨日の映像の約1分前に遡ってみましょう。

コオロギを私が飼育ケースに入れて2分ほど経過しました。コオロギは、私が飼育ケースに入れた時から隠れる場所を探して動き回っていました。その後が、下記の映像になります。

トウキョウトガリネズミは、休んでいた草むらから出てきて、鼻先を空中に突き出します。まるで、鼻先がコオロギを探すレーダーのようです。そして、何かを感じとったのか草に潜り、その中をまっすぐ移動してきて、コオロギが動いている草むらの近くから出てきます。その誤差15cm弱。(画面からコオロギは消えていますが、画面左下の画面から切れたギリギリのところで、もそもそ動いています。)

しかし、草むらから出てきた瞬間のトウキョウトガリネズミは、映像からはコオロギがそばにいることは認識していません。コオロギの方向を1度も見ていないからです。餌入れを回り込んで、開けた空間に出てコオロギと出会うことになります。ところが、今回のように餌入れを回り込んでも、毎回コオロギの居る方向に行くわけではありません。反対方向に行ってしまい、飼育ケースを隈なく探しことになる場合もあります。

いずれにしても、昨日の場面のようにコオロギが前進してくる延長線上で、かつ至近距離でないと視力を使っていると思える場面は見られません。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 4

トウキョウトガリネズミは、じっとしているコオロギは見逃すという話をしてきましたが、本来コオロギをどのように捕食するかについて、映像をアップしていませんでしたので、本日はその映像を載せました。

コオロギが動いていれば、このように捕獲するという映像です。

コオロギを発見した時の、トウキョウトガリネズミの顔と目の動き、そして、どの時点で獲物として認識し、捕獲したのかについてよく見てください。

明らかに獲物が目の前にいると認識したのは、10cm程度前で、コオロギが歩いているのをみて、自分の進行方向の右側に草を飛び越え、コオロギの進行方向正面を避けて、コオロギを狙っているのが判ります。そして、間合いは計って4cm程度まで目の前に来た時点で飛びかかっています。その行動の間は、目(顔)はコオロギに向けられています。しかし、寸前でコオロギにかわされています。

実は、コオロギを捕食するときは、多くの場合1回で押さえ込めず、追いかけて仕留めることが多いです。基本的に1歩で捕まえられる距離ですか、1回では仕留められないのを見ますと、良く獲物が見えていないのか、動体視力が弱いのではないかと思ってしまします。

 

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 3

トウキョウトガリネズミの行動を観察すると、そのヒントがいくつかあります。

トウキョウトガリネズミは、捕獲して新しい飼育ケースに入れると必ず隅々まで確認します。その時、鼻を動かし、くんくんと匂いを嗅ぐような仕草と口周りのひげで触れて確認しているように見えます。そして、ケース内を何度も隈なく探索したあと、一定時間が経つと納得したのか、そのケース内で居心地の良い場所でじっとします。最初は脱出しよういているだけかもしれませんが、とにかく、今入れられた場所の空間把握をするために、行けるところはすべて行くという感じで、ケース内を探索します。

その際に、それ以上高いところに行けない場合は、昨日掲載したような立ち上がって空間の匂いを嗅ぐような行動を見せます。その際にゆっくりと指をだしても、すぐには逃げることもなく、触れられるような距離になると匂いを嗅いで、時には直接鼻先で触ってみて、ほとんどの個体は瞬時に体を引き、移動します。中には、何度か触れるような行動をして、少しずつ前進と後退を繰り返しながら指に乗ってくる個体もいます。(手の平でも同じです)

しかしこれら一連の行動には、例えばキツネが人間と遭遇するとこちらの動きを把握するために、こちらを見つめるという行動が見られますが、それが見られないのです。