トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 5              どのように見えているか4の1分前に遡る

昨日は、トウキョウトガリネズミがコオロギを捕食する瞬間の映像でした。さた、どのようにしてトウキョウトガリネズミは、コオロギを発見したのでしょうか?

昨日の映像の約1分前に遡ってみましょう。

コオロギを私が飼育ケースに入れて2分ほど経過しました。コオロギは、私が飼育ケースに入れた時から隠れる場所を探して動き回っていました。その後が、下記の映像になります。

トウキョウトガリネズミは、休んでいた草むらから出てきて、鼻先を空中に突き出します。まるで、鼻先がコオロギを探すレーダーのようです。そして、何かを感じとったのか草に潜り、その中をまっすぐ移動してきて、コオロギが動いている草むらの近くから出てきます。その誤差15cm弱。(画面からコオロギは消えていますが、画面左下の画面から切れたギリギリのところで、もそもそ動いています。)

しかし、草むらから出てきた瞬間のトウキョウトガリネズミは、映像からはコオロギがそばにいることは認識していません。コオロギの方向を1度も見ていないからです。餌入れを回り込んで、開けた空間に出てコオロギと出会うことになります。ところが、今回のように餌入れを回り込んでも、毎回コオロギの居る方向に行くわけではありません。反対方向に行ってしまい、飼育ケースを隈なく探しことになる場合もあります。

いずれにしても、昨日の場面のようにコオロギが前進してくる延長線上で、かつ至近距離でないと視力を使っていると思える場面は見られません。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 3

トウキョウトガリネズミの行動を観察すると、そのヒントがいくつかあります。

トウキョウトガリネズミは、捕獲して新しい飼育ケースに入れると必ず隅々まで確認します。その時、鼻を動かし、くんくんと匂いを嗅ぐような仕草と口周りのひげで触れて確認しているように見えます。そして、ケース内を何度も隈なく探索したあと、一定時間が経つと納得したのか、そのケース内で居心地の良い場所でじっとします。最初は脱出しよういているだけかもしれませんが、とにかく、今入れられた場所の空間把握をするために、行けるところはすべて行くという感じで、ケース内を探索します。

その際に、それ以上高いところに行けない場合は、昨日掲載したような立ち上がって空間の匂いを嗅ぐような行動を見せます。その際にゆっくりと指をだしても、すぐには逃げることもなく、触れられるような距離になると匂いを嗅いで、時には直接鼻先で触ってみて、ほとんどの個体は瞬時に体を引き、移動します。中には、何度か触れるような行動をして、少しずつ前進と後退を繰り返しながら指に乗ってくる個体もいます。(手の平でも同じです)

しかしこれら一連の行動には、例えばキツネが人間と遭遇するとこちらの動きを把握するために、こちらを見つめるという行動が見られますが、それが見られないのです。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 2

動物が目で物を見るという行為は、見た物が自分にとってどのような物かと認識する行為と置き換えられます。したがって、見えたものが、食べ物か、危険な物かなど、自分にとってどのような物であるかを認識して、取るべき行動を判断するということになります。

ワシタカ類の中には、空中から草の中にいるネズミを確認して捕獲できますが、ガンやハクチョウ類などでは、ネズミを食べる必要がないのでそのような能力は多分もっていません。すなわち種ごとに、生活様式によって「見える物の大きさや内容」=「認識できる内容」が異なることは明らかです。したがって、基本的に我々と同じものを見ていても、見えている範囲や認識している内容は同じでないことが想像できると思います。トウキョウトガリネズミは立ち上がってもせいぜい6~7cm程度です。したがって、身長170cmの人間を見るということは、人間が高さ40m位(10~11階程度)のビルを見上げているようなものです。

そして、じっとしていると数センチ前にいるコオロギも認識できずに良く通過してしまいますので、遠いものを認識できる目の能力はとても低いと推察されます。動いていれば、動く物体として認識はするでしょうが、人間の全体の形を目で認識しているとは考えにくいのです。したがって、イヌやネコなどが、飼い主とそれ以外などというような個人を区別して生じるような馴れというのを想定しているのであれば、それは無いと言えるでしょう。

これだけを聞きますと、「目が見えなくて、人馴れしないとか言うけれど、手乗りするトウキョウトガリネズミもいるから、おかしい」と思われる方もいると思います。しかし、人間からすると視力は確かに良くありませんが、それは物を認識する方法が異なるだけですし、本来人と接することはありませんので、人に馴れるということ自体の概念を持っていませんので、手に乗る行為が馴れたというのは人間側の都合の良い解釈だということになります。

では、どのように考えたら良いのでしょうか。

 

トウキョウトガリネズミは、どのように見ているのか 1

トウキョウトガリネズミについて、色々質問をいただきます。「トガリネズミは目が見えますか?」とか「馴れますか?」とかは、頻繁に聞かれる項目です。私の回答は、往々にしてみなさんの期待外れのようです。それは多くの場合、質問者が期待していた回答とは異なるからみたいです。

映像を見てください。この映像を見てどのように見えますか?

私には、撮影している私を気にしているようですが、目を使って物を判別しているような動きをしていない様に見えます。光を当てても、極端に嫌がってはいないようです。日中でも夜間と同じように、鼻や口ひげで何かを捉えようとしているように見えます。

そこで、質問です。「目が見えるというのはどのような状態を指していますか?、馴れるとはどのような状態を指しますか?」

この質問は、見えるか、馴れるのか、と質問されたらいつも聞き返す内容です。さて、あなたはどのような回答になりますでしょうか?これは、互いがどのような視点でトウキョウトガリネズミを見ているかを明らかにするための質問なのです。回答の本題に入る前にとても重要なポイントになります。

 

トウキョウトガリネズミの夜間活動1

これは赤外線ライトを使用して、AX-60で撮影したものです。トウキョウトガリネズミを含めトガリネズミ類は、ほぼ夜間に捕獲されます。22時から2時の間に捕獲されることが多いです。したがって、良く夜行性なのかと質問されますが、採餌行動は日中でも頻繁に見られますので、夜行性というのは適切ではありません。

これまでブログに掲載してきた動画や写真は、日中やライトを照らした中で撮影したものが多いですが、それと比較してもこの動画のトウキョウトガリネズミの行動や動きの速さなどは全く変わらないことが判ります。

トウキョウトガリネズミの目は小さく、コオロギがほんの1~2cm程度前方にいえも動かずじっとしていますと、その前をあっという間に通過してしまいます。それは、夜間でも日中でも変わりません。目の構造・組織についての研究はなされていませんので詳細はわかりませんが、人間が物が見えていると考える状況・概念とは異なっていることだけは確かです。

真夜中の食事

 

トウキョウトガリネズミが、餌を食べたり、水を飲んだりする映像は、なるべく自然環境に近い状態で飼育しますと、草や流木などを入れているため撮影しにくい状況になってしまいます。そこで、衣装ケースを2つ繋げて一方を餌と水と隠れ家用に木の箱だけ、もう一方はチップと流木のみにして、自動撮影装置でどれくらいの頻度で餌や水を飲むのかを調べることがあります。

上記の映像は、夜中の0時58分水をのみ、衣装ケースの隅まで行ったあと、ゆでミルワームを木の箱の中で食べようを持ち込んでいるところです。夜間で真っ暗な飼育小屋の中でも、迷うことなく行動していることが判ります。

 

トウキョウトガリネズミの歩く?走る?スピードは時速2km超え?!

上記の映像のようにトウキョウトガリネズミがケースの端から隣のケースへ移動するスピードは、1秒未満で約70cmは移動していることが、ケースの大きさから判ります(メーカーで公表しているケースの長さは74cm)。

映像では、特に驚いている様子もなく、普通に移動しています。これを歩いているというのか、走っているのか、トウキョウトガリネズミ本人に聞いて見ないと判りませんが、これが実際の普通の移動速度になります。正確には、カメラの前から隣のケースへ移動距離はカメラの長さが8cmありますので、66cm程度となります。壁面にきっちりとつけている訳ではないので、切りの良いところで65cmの移動距離と仮定します。

実際には1秒かかっていませんが。1秒で約65cmですから、3600倍すると1時間に234,000cm=2,34km、え!時速2kmということですか?

人間の歩く速度は時速4km程度と言われますから、人間の半分の速度ですが、歩幅は、トウキョウトガリネズミは人間の1/42.5ですから、人間が時速85kmに相当する距離を移動すること似ていると言えるでしょう(トウキョウトガリネズミの前足と後足の間隔は2cm程度で、人間は身長が170cmで歩幅85cm程度)。1時間もトウキョウトガリネズミは移動しませんから、時速85kmで歩く人間相当と言ってみても意味があるとは思えませんが、歩幅が小さいということを考えると、結構高速移動しているとは言えるでしょう。

ガリガリしている雪だと穴が掘れないトウキョウトガリネズミ

昨日、トウキョウトガリネズミは凍った雪だと掘れないということを書きましたが、どの程度なのかを示したものが下記の動画です。

一度プラスの気温になった後の庭の雪を入れたケースに、トウキョウトガリネズミを放したものです。スコップでひと掻きしたものをそっと入れたものです。偶然できたヘコみが一カ所あったのでそこに隠れようとしますが、不十分なのでそこを掘ろうと頭からアタックしますが、堅くて掘れないようです。

堅さは、人間が転んで素手で手をついたら、小さな氷のつぶつぶを感じるくらいのざらざらしている状態です。むしろ、転んだ時に擦り傷ができるか出来ないか程度のガリガリ感のある状態と言った方が似ているかもしれません。

下の映像には載せていませんが、狭い隙間に入ろうと探していますが、結局落ち着つけるような大きさと快適さのある場所が見つからず、うろうろしていましたので、5分ほどで回収して、いつもの飼育ケースに戻しました。

冬はどうしている?

北海道に生息しているトガリネズミの仲間で、トウキョウトガリネズミ、オオアシトガリネズミは、冬眠しないことは飼育して確認しました。私は、ヒメトガリネズミとエゾトガリネズミは、冬季に野外で飼育をしたことがありませんので、冬眠していないことまだ確認できていません。しかし、両種とも冬眠はしていないと推察されます。ヒメトガリネズミについては、霧多布湿原センターに勤務していた時、2月に建物に中に入ってきた個体を捕まえたことがありますので、冬眠していないと考えます。

さらに、積雪期にどこで、どのように生活しているのかについては、全く判っていません。雪上を歩くオオアシトガリネズミの紹介は以前しましたが、ずっと雪上とは考えられません。したがって、雪の下での行動が主体と考えるのが自然です。

トウキョウトガリネズミの飼育下での行動を見ていますと、雪にトンネルを掘りますが、堅く凍っていると掘れないようです。多分、雪の下では、映像のように枯れ木とか枯れ草などと雪の間にできた空間を、トンネルでつなぎなから活動しているのでないかと推察されます。

トウキョウトガリネズミの耳

人間の耳介は哺乳類の中では小さく、その形はすこし複雑な形になっています。外側からの上から、耳輪(じりん)、対耳輪上脚(ついじりんじょうきゃく)、対耳輪下脚(ついじりんかきゃく)、耳甲介(じこうかい)、外耳孔(がいじこう)、対珠(ついじゅ)、耳垂(じすい)=耳たぶ というように、でこぼこしています。

イヌなどの耳介が長い哺乳類は、耳介の表面はなめらかなものが多く、外耳道の方が複雑な形をしているものが多いです。

では、トウキョウトガリネズミの耳介は、どうなっているのでしょうか?

トウキョウトガリネズミは、耳があることがはっきり認識できます。(私は、意外と大きいと感じます。)写真などでみると毛に覆われており、イヌの耳介のようになめらかのように見えます。しかし、よく見ると人間に似て複雑な形をしています。