北大博物館のトガリネズミ展示の裏側(2)

左が生きたミルワーム、右はゆでミルワーム、ミルワームは、ゴミムシダマシの幼虫です。

トガリネズミの展示を見た方は、トウキョウトガリネズミに生きたミルワームが与えられているのをみて、驚く方もいらっしゃいます。

展示場におけるトガリネズミの餌はトウキョウトガリネズミ以外は、基本は丸く固められた人工餌に、おやつとして生きたミルワーム、ゆでミルワーム(缶で販売されているもの)が与えられています。北大で研究用に飼育されている個体は、人工餌が与えられていますが、私の飼育している個体には、生きたミルワームとゆでたミルワーム基本に、時々生きたコオロギを与えています。

トガリネズミにも、個体ごとに嗜好があって、人工餌への食いつきが悪く死亡する個体もいます。捕獲個体の少ないトウキョウトガリネズミでは、そのようなリスクを負えませんので、私は人工餌を使用していません。トウキョウトガリネズミに限らず、生きたミルワームを好んで食べていたかと思うと、突然ゆでたミルワームを多く食べるようになったりします。人工餌を食べるようになっても、それだけしか与えていないと突然食べなくなることもありますので、私はまだ人工餌だけでの飼育には踏み切れていません。

人工餌の方が栄養バランスが整っており、安価で交換も楽です。生きたミルワームの場合、死亡しているミルワームを取り除きながら必要なグラム数を選別するため、かなりの時間を要します。また、栄養バランスを考え、生きたミルワームにドッグフードを与えてたりしていますので、餌になるミルワームの世話もありますので、手間が結構かかります。

トウキョウトガリネズミ以外の3種のトガリネズミは、ミルワーム(生きた、ゆでの関係なく)を入れたケースの中で糞尿をしますので、残っていても再利用できることがほとんどありません。しかし、トウキョウトガリネズミは、餌を入れたケースから取り出して食べることがほとんどですし、中に入っても糞尿をすることはほとんどありません。種によってもかかる手間が異なります。1頭当たりの餌やりかかる手間は、我が家のイヌよりもかかっていると思います。

展示期間中は、毎日北大の学生さん達が2人で約1時間かけて作業を行い、維持しています。

北大博物館のトガリネズミ展示の裏側(1)

バックヤードの飼育状況

現在北大博物館で開催しているトガリネズミ展は、生体を展示していますので、通常の展示よりも多くの人に支えられて運営されています。

生体を展示している動物園や水族館も、生体を展示していない博物館も法律上では同じ博物館として扱われますが、その館の基本コンセプトにないものを展示する場合は、これまで無かった日々の作業工程や作業量が増加することになります。したがって、北大博物館は通常生体を展示していないので(水生昆虫の展示はありますが・・)、色々と関係者にご負担をおかけすることになります。

トガリネズミ展を維持するためには、期間中展示されている個体以外にバックアップ用の個体も博物館内で飼育しています。展示個体も含めこれらの個体の世話は、北大の学生ボランティアが交代で、毎日1回を行っています。2人体制で行ってもらっていますが、1時間程度かかります。

博物館の職員の方は、主にバックアップ用の飼育個体がいる部屋の日長の調整を行っていただいています。長期間明確な日中と夜が無い状況が続くと、体調に異常を来します。作業は単に時間通りに照明をつけるという行為ですが、トガリネズミの体調管理においてとても重要な作業をしていただいています。さらに、トガリネズミに変化がないか、常に気にしていただいていて、頻繁に確認していただいています。

体が小さいので飼育も楽と思われるかもしれませんが、長生きさせるためには細かい管理が必要で、中・大型動物と比べるとちょっとしたミスや油断が死亡原因となります。実は、累代飼育が可能になっていない北海道に生息している4種のトガリネズミを1ヶ月以上も生体展示するのは、かなりハードルが高いことなのです。それを可能にしているのが、博物館の職員の方と学生ボランティアの方々なのです。

飼育ケース内のトウキョウトガリネズミを見つけるポイント

トウキョウトガリネズミの観察ポイント

10月31日の午前中に、博物館の展示の様子を見に行きました。思っていたより多くの人が博物館の見学に訪れていて、驚きました。また、その中でも結構な方が興味を持って、トガリネズミ展のコーナーを見ていただいていました。ありがとうございます。

見学の方を見ていますと、入り口の展示剥製を少し見て、展示ケースをみて、トガリネズミが出ていないとそのまま通過してしまうという状況でした。パネルには少し目を向けられますが、残念ながら流れている映像には素通りでした。トガリネズミ展を目的としてこられた方は少ないので、仕方ないと思いますが、せっかくなので、世界最小級の哺乳類とシロクマの大きさの差を実感してもらいたいと思いました。

今回の映像は、新型コロナウィルス感染防止の観点から、これまでように対面で解説するのもいかがな物かと考えて、解説中心のスライドとトウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミの紹介の映像で構成しています。そもそも、パネルの代わりという部分も持たせているので、文字が多いスライドが多いので、そんなに見ていただけないというのは想定していましたが、立ち止まって、トガリの映像を見ていただいた方はほんの数人の方でした。

その映像には、トウキョウトガリネズミを見つけるポイントも紹介しています。もし、これから見に行かれるなら、上図の場所に注目してトウキョウトガリネズミを探してください。動いていると判りますが、じっとしていると意外を気がつきません。動いていないからといって、草の中に隠れていると思っていたら、意外と目の前に居たということもあります。

あと、探す時間はほとんどの方は10秒程度で、1分近くかける方もそんなに多くはありません。トウキョウトガリネズミは、多くの場合約30分に1回程度(時には2時間以上出てこないこともありますが)は、隠れている場所からでてきます。会場では、トウキョウトガリネズミが出ていないことをまず確かめてから、映像とパネルを見てもらえますと、その間に出てくる可能性が高くなります。もう少し時間をかけていただければと思います。ちなみに顔を出すのは数秒から5分程度とその時によってかなりのばらつきがあります。